「アンガーマネジメントなんて意味ない」
そういった声を聞くことがあります。
ですが、アンガーマネジメントは、正しく理解して実践すればビジネスシーンで役立つ、とても意味あるテクニックです。
アンガーマネジメントに意味を感じない人の多くは、アンガーマネジメントを誤解しています。
本記事ではアンガーマネジメントのよくある誤解を解説します。
さらに、アンガーマネジメントを正しく理解し実践する方法も紹介します。
アンガーマネジメントは意味がないと言われる理由
なぜアンガーマネジメントは意味がないと言われるのか。
その理由について調査した結果、次のような意見が多いことがわかりました。
- 6秒待っても怒りが消えない。むしろ怒りが増幅される
- 6秒も待っていたら、相手にいいように言われて反撃の機会を失う
- 怒っちゃダメなんて無理。怒ったり叱ったりすべき時がある
- アンガーマネジメント研修を受けてきた上司が、その日のうちに怒って怒鳴り散らしていた
なるほど、この意見を聞くと「アンガーマネジメントは意味がない」と言いたくなるのもわかります。
ですが、このような意見の人はアンガーマネジメントを誤解しています。
- 誤解1:アンガーマネジメントは怒りを消すテクニックだと思っている
- 誤解2:怒りを感じたらすぐに反撃しなくては、相手に負ける
- 誤解3:アンガーマネジメントは怒っちゃダメという教えだと思っている
- 誤解4:知識を学べばすぐに効果がでるテクニックだと思っている
誤解1:アンガーマネジメントは怒りを消すテクニックだと思っている
アンガーマネジメントを誤解している人の多くは、アンガーマネジメントを「湧き上がってきた怒りを消すテクニック」だと思っています。
アンガーマネジメントの有名なテクニックに「6秒ルール」があります。
「怒りを感じたら6秒待て。そうすれば怒りのピークが過ぎて冷静に対処できるようになる」というルールです。
アンガーマネジメントを「怒りを消すテクニック」だと誤解している人は、「6秒待ったくらいで怒りは消えない」と言います。
ですが、アンガーマネジメントは怒りそのものを消すテクニックではありません。
そもそも、怒りは人間の自然な感情であり、その感情をなくすことなどできません。
アンガーマネジメントは、怒りを消すのではなく、怒りに駆られた衝動的な行動を抑えることを目的としたテクニックです。
誤解2:怒りを感じたらすぐに反撃しなくては、相手に負ける
「6秒待てというが、そんなに待っていたら反撃の機会を失う」という人もいます。
怒りの対象が目の前にいるのに、6秒も黙って待っていたら相手に言いたい放題言われてしまうじゃないか、と思う気持ちもわかります。
ですが、アンガーマネジメントは反撃して相手をやり込めようとする行動を良しとしません。
反撃して相手をやっつけようとすること自体が、怒りに駆られた衝動的な行動である可能性が高いからです。
怒りの感情にまかせて反撃しても、言い合いになって疲弊するだけです。
そればかりか、場の雰囲気も悪くなり、収拾がつかなくなって気まずい空気が流れます。
アンガーマネジメントが目指すのは、無駄に疲弊するのではなく冷静に怒りを伝えることです。
相手に反撃するより冷静に対処する方が、事態の収拾がずっと楽になります。
誤解3:アンガーマネジメントは「怒っちゃダメ」という教えだと思っている
アンガーマネジメントでは「怒ってはいけない」と教えている。
そう思っている人もいます。
そういう人は、「怒らないといけないシーンは必ずある。なのに怒ってはいけないと教えるアンガーマネジメントは意味がない」と言います。
ですが、これも誤解です。
アンガーマネジメントは、怒ることを否定しません。
怒るべき時には適切に怒り、怒らなくて良いときには無駄に怒らない方法を身につけることがアンガーマネジメントの目的です。
誤解4:知識を学べばすぐに効果がでるテクニックだと思っている
- 上司がアンガーマネジメント研修を受けてきたけど、速攻で怒っていた
- 自分でアンガーマネジメントを学んで試してみたけど効果がなかった
だからアンガーマネジメントなんて意味がない。
そう訴える人もいます。
そういう人は、アンガーマネジメントの知識を学んだりテクニックを数回試しただけで、すぐに効果が出ると思っています。
ですが、アンガーマネジメントは、知識を学んで数回試しただけで劇的な効果を得るのは難しいテクニックなのです。
アンガーマネジメントで効果を出すには、ある程度のトレーニングが必要になります。
繰り返しトレーニングしながら自分がやりやすい手法やコツを見つけることで、上達させていく技術なのです。
アンガーマネジメントとは
アンガーマネジメントは怒りにかられた衝動的な行動を抑えるテクニック
アンガーマネジメントは、怒りにまかせた衝動的な行動を抑えるための心理テクニックです。
怒りの感情そのものを消す方法ではありません。
そもそも、怒りは人間の自然な感情であり消すことはできません。
ですが行動は選択できます。
アンガーマネジメントは、怒りを感じたときに、どう行動するべきかを冷静に判断できるようになるためのテクニックです。
人は怒りで頭に血が上っていると、怒鳴り散らしたり、物に当たって壊したり、関係ない人に八つ当たりしたりしてしまいます。
あなたも、怒りにまかせた衝動的な行動を後悔したことがあるのではないでしょうか。
アンガーマネジメントを学ぶことで、このような衝動的な行動を抑え、適切に怒りを表現できるようになります。
なお、適切に怒りを表現する具体的な方法も、後ほど解説します。
アンガーマネジメントはパワハラ対策にも有効
2020年にパワハラ防止法が施行されました。
2022年4月には中小企業にも法律が適用され、全企業にパワハラ防止措置が義務化されています。
参考:厚生労働省ホームページ「職場におけるハラスメントの防止のために」
パワハラは、当事者の人生を変えるだけでなく、企業の信頼をも失墜させ経営活動に大ダメージを与える行為です。
このパワハラを防止する手段としても、アンガーマネジメントが有効です。
パワハラの中には、怒りでカッとなって衝動的に発した言葉や行動が原因のものも少なくありません。
アンガーマネジメントを学び、怒りによる衝動的な行動・言動を抑えることは、パワハラの防止につながります。
アンガーマネジメントはコミュニケーション能力を高める
アンガーマネジメントを身につけることで、コミュニケーション能力も高められます。
コミュニケーション能力を構成するスキルの1つに「自己統制」があります。
この自己統制は、コミュニケーション能力を下支える基本スキルであり、次の4つの要素で構成されています。
欲求抑制 | 自分の衝動や欲求を抑える |
感情統制 | 自分の感情をうまくコントロールする |
道徳観念 | 善悪の判断に基づいて正しい行動を選択する |
期待応答 | まわりの期待に応じた振る舞いをする |
アンガーマネジメントを身につけることで、自分の衝動や欲求を抑えて怒りの感情を上手くコントロールできるようになるため、自己統制スキルが飛躍的に向上します。
自己統制スキルが向上することで、コミュニケーション能力が高まるのです。
なお、コミュニケーション能力については、以下の記事で詳しく解説しています。
怒りとは
アンガーマネジメントを適切に身につけるには、「怒り」という感情の性質や種類を知ることも重要です。
怒りの本質
怒りは2次感情と言われています。
人は、怒りが湧き起こる前に、怒りとは別のネガティブな感情(悲しみ、憎しみ、困惑など)を感じています。
例えば、部下がミスをしたことに対して怒りを感じた場合、その怒りの前に次のような気持ちを感じているのです。
- 部下に期待していたのに裏切られた(悲しみ)
- なんでそんなしょうもないミスをしたのか理解できない(困惑)
このネガティブな感情を1次感情といい、怒りは1次感情によって生成される2次的な感情なのです。
アンガーマネジメントを身につけるには、怒りの前に1次感情があるということを知り、自分の怒りの1次感情に目を向けられるようになることが重要です。
怒りの5つの性質
怒りは5つの性質を持っています。
①高いところから低いところに流れる
役職が高い人が低い人に怒りをぶつけやすいように、怒りは力関係が強い人から弱い人に流れます。
上司に怒りをぶつけられた人が、イライラして後輩に八つ当たりするとった負の連鎖を起こしてしまうこともあります。
②周囲に伝染する
怒っている人がいると、その場がピリピリします。
横で仕事をしている人がイライラして貧乏揺すりしたり、「チッ」と舌打ちしたりしていると、自分までイライラしてくるという経験はありませんか?
これは情動感染といって、周囲の人に感情が伝染する現象です。
怒りの感情はエネルギーが強いため、情動感染が起きやすいと言えます。
③身近な対象ほど強くなる
怒りは、身近な人にほど強く出る性質があります。
なぜなら、人は身近な人ほど「自分の思いどおりになると期待してしまう」からです。
自分の思い通りなると期待していた人が期待と違う行動を取ったとき怒りが生じやすく、怒りの度合いも強くなってしまいます。
④矛先を固定できない
怒りは、矛先を固定できません。
怒ってイライラいると、怒りを感じた相手だけでなく、関係ない人にまで強く当たってしまいがちです。
そのため、「課長は今イライラしているから近づかないようにしよう」といった具合に、怒りの対象ではない人にまで気を遣わせてしまうことも多いのです。
⑤モチベーションの源になる
怒りは、自分をふるい立たせ目標に向かって行動するモチベーションの源にもなります。
アンガーマネジメントを学んで怒りを上手に使うことができるようになれば、怒りをモチベーションに転換し「いまに見ていろ!次は結果を出してみせる」と自らを奮い立たせることができます。
青色発光ダイオードを発明してノーベル物理学賞を受賞した中村修二さんも、インタビューで「怒りが私の原動力だった」と語っていました。
このように、怒りはマイナスな要素だけでなく、プラスのエネルギーに変えることもできるのです。
気をつけたい4種類の怒り
怒りそのものは、必ずしも悪い感情ではありません。
ですが、次に挙げる4つの怒りの種類は、とても危険な状態です。
- 強度が強い怒り
- 頻度が高い怒り
- 攻撃性をもつ怒り
- 持続性がある怒り
これらの怒りで自分の身を滅ぼさないよう、アンガーマネジメントを活用して怒りがそれ以上ふくらまないようにしましょう。
強度が強い怒り
- 怒った時に自分でまったくコントロールができなくなる
- 怒り出したら自分で止められない
このような強い怒りには注意が必要です。
そのような状態になると、理性がまったく働かなくなり衝動的な行動を抑えられなくなってしまいます。
このような怒り方をする人は、後で説明するアンガーマネジメントのとっさの対処法テクニックが有効です。
頻度が高い怒り
いろんなことに怒りを感じ、いつもイライラ不機嫌になっている状態です。
怒ることが習慣になってしまっているケースもあり、過去の出来事を思い返して怒りを感じてしまう「思い出し怒り」もしてしまいます。
このような怒り方をする人は、後で説明するアンガーログをつけるのが有効です。
自分がどういうときに怒りやすいのか、何に対して怒りやすいのかを把握することで、怒りが湧き上がる前に対処できるようになります。
攻撃性をもつ怒り
怒るたびに暴力を振るったり、言葉で相手を傷つけたりしてしまう状態です。
怒りにまかせた衝動的な行動が、攻撃的・暴力的になってしまい、パワハラの加害者になってしまう危険があります。
このような怒り方をする人は、後で説明するアンガーマネジメントのとっさの対処法テクニックが有効です。
持続性がある怒り
一度怒るとなかなか怒りが収まらず、何時間も(時には何日も)不機嫌なままになってしまう状態です。
ひどくなると、相手のことを恨み続けてしまい危害を加えようとする危険もあります。
このような怒り方をする人は怒りの1次感情を意識するのが有効です。
自分がなぜ怒っているのか、その1次感情な何だったのかを把握し、自分がどういう気持ちだったのかを相手に伝えられれば、怒りから解放されます。
怒りの源
怒りの源は、あなた自身の「べき」
怒りの源はあなたの「べき」です。
「べき」とは、言い換えれば、「ゆずれない価値観」や「信条」です。
例えば、次のようなものがあります。
「そうじゃない、そこは○○するべきだろ」
「常識的に考えて、今は○○でしょ」
「○○するのが当たり前じゃない?」
「普通はできるだろ、なんでできないの?」
このような「べき」(価値観や信条)のことを、アンガーマネジメントでは「コアビリーフ」とも呼びます。
コアビリーフは、幅広い範囲に及びます。
例えば、
- 上司とはこうあるべきだ
- 後輩はこうするべきだ
- この仕事はこうやるべきだ
- これはあなたがするべきだ
- 時間は守られるべきだ
など、私たちが生きているさまざまな分野でコアビリーフは存在します。
そして、あなたのコアビリーフを他人が破ったとき、怒りが生じます。
あなたのコアビリーフと現実との間に生じるギャップが、怒りを生む原因になっているのです。
「べき」の境界線を広げれば怒りにくくなる
あなたには、怒る/怒らないを決める基準となる、「べき」の境界線があります。
「べき」の境界線を、次の図のような3重丸で考えてみましょう。
自分と同じ「べき」 | 怒らない |
自分の「べき」とは少し違うが、許容できる | 怒らない |
自分の「べき」と異なり、許せない | 怒る |
「べき」の境界線を広げて、許容できるゾーンの範囲を増やすことで、怒りにくくなります。
許容できるゾーンを広げるには、自分の「べき」と違う価値観に出会ったとき「なるほど、そういう考え方もあるのね」と考え、価値観の多様性を認めるよう心がけることが大切です。
怒りのタイプ診断 あなたはどのタイプ?
自分の「怒りの癖」を知り、「私はこういうタイプだから、こんな状況のとき怒りやすい」と予測できれば、無駄な怒りを回避できます。
次のチェックシートで、あなたの怒りタイプを診断してみましょう。
まず、次のチェックリストに答えて、点数をつけてみましょう。
「はい」=4点/どちらかと言えば「はい」=3点/どちらかと言えば「いいえ」=2点/「いいえ」=1点
怒りのタイプ診断チェックリスト |
---|
Q1.世の中には尊重すべきルールがあり、人はそれに従うべきだ |
Q2.ものごとは納得いくまでつきつめたい |
Q3.自分に自信があるほうだ |
Q4.人の気持ちを誤解することがよくある |
Q5.なかなか解消できない強いコンプレックスがある |
Q6.リーダー的な役割が自分に合っていると思う |
Q7.たとえ小さな不正でも見逃してはいけない |
Q8.好き嫌いがはっきりしている |
Q9.自分はもっと評価されて良いと思う |
Q10.自分で決めたルールを大切にする |
Q11.人の言うことを素直に聞くのが苦手 |
Q12.言いたいことははっきりと主張すべきだ |
次の計算の結果、点数が高かったものがあなたの怒りのタイプです。
(もし同じ点数が2つ以上あれば、その両方があなたのタイプとなります)
- Q1+Q7 = 熱血柴犬タイプ
- Q2+Q8 = 白黒パンダタイプ
- Q3+Q9 = 俺様ライオンタイプ
- Q4+Q10 = 頑固ヒツジタイプ
- Q5+Q11 = 慎重ウサギタイプ
- Q6+Q12 = 自由ネコタイプ
①熱血柴犬タイプ
曲がったことが大嫌い。
自分の「○○するべき」と少しでも違ったり、規則に従わない人がいると怒りを感じる。
[怒りを減らす対策]
自分のルールを他人に押しつけないこと。
他人には他人の考え方があることを受け入れ、「べき」の境界線を広げよう。
②白黒パンダタイプ
敵か味方か、良いことか悪いことかなど、物事に白黒つけたがる。
完璧主義者でもあるので、自分と価値観が違うとストレスを感じて怒りやすい。
[怒りを減らす対策]
何事も白黒つけず、中間があってもいいという考え方を持つこと。
いろいろな考え方を認め、「べき」の境界線を広げよう。
③俺様ライオンタイプ
堂々としていて行動力があるため、リーダー的な存在になりやすい。
プライドが高いため、自分の意見が否定されると「自分が否定された」と感じ、怒りやすい。
[怒りを減らす対策]
相手に意見を受け入れてもらえなくても、あなた自身が否定されたわけじゃないと考えよう。
④頑固ヒツジタイプ
いつも穏やかで優しく見られることが多いけど、したくないことを頼まれるとイライラする。
一度決めたらゆずらない頑固な一面も持っている。
[怒りを減らす対策]
自分のルールを通そうとせず、人の意見や考えにも耳を傾け、柔軟な考え方を身につけよう。
⑤慎重ウサギタイプ
真面目で慎重に行動するタイプ。
用心深いため、「○○してはいけない」というルールを守れない人に対して怒りやすい。
[怒りを減らす対策]
心を開いて周りに頼ってみよう。
信頼関係が生まれて安心できるようになる。
ルールを守れない人がいたら、その原因に目を向けてみよう。
⑥自由ネコタイプ
空気を読むことが苦手で、思ったことをすぐ口に出してしまう。
規則が厳しいと、ストレスからイライラしてしまう。
[怒りを減らす対策]
自分と違う考え方の人がいることを理解しよう。
一歩引いて状況判断することを心がけると、トラブルも回避できる。
アンガーマネジメント実践テクニック
アンガーマネジメントのテクニックは、大きく分けると「とっさの対処法」と「長期的な改善法」の2タイプがあります。
タイプ | テクニック | 特徴 |
---|---|---|
とっさの対処法 | ・6秒ルール ・スケールテクニック ・カウントバック ・コーピングマントラ ・タイムアウト | ・怒りを感じたときに使う、とっさの対処法 ・怒りにまかせて衝動的に行動しないためのテクニック ・イラッとした瞬間に有効 |
長期的な改善法 | ・アンガーログ ・べきログ ・ストレスログ | ・怒りを減らす長期の改善法 ・長期(3週間)にわたって取り組むことで効果を発揮 |
それぞれの具体的なテクニックを紹介します。
6秒ルール
人は、怒りでカッとなってから理性が働き出すまで6秒かかると言われています。
怒りで失敗してしまうのは、理性が働かない6秒の間に衝動的な行動をとってしまうからです。
この6秒をなんとかやり過ごせば、理性が追いついてきて冷静に行動を選択できるようになります。
とはいえ、カッとなって頭に血が上っているときは、「6秒待とう」と冷静に考えること自体が難しいものです。
そこで、6秒のやり過ごし方として有効なテクニックが、次に紹介する「スケールテクニック」「カウントバック」「コピーマントラ」「タイムアウト」です。
カッとなって冷静さを失っている状態で、すぐにこれらのテクニックを使いこなすのは難しいかもしれませんが、練習すれば上手に使いこなして6秒をやり過ごせるようになります。
いろいろ試して自分がやりやすい方法を見つけておきましょう。
スケールテクニック(怒りの点数化)
スケールテクニックは、怒りに1〜10の点数をつける方法です。
具体的には、カッとなった瞬間に「この怒りは何点だ?」と考えるようにします。
「ちょっとムッとしただけだから1点かな」
「今のあいつの言い方は失礼すぎる。5点だ」
などと考えている間に、6秒をやり過ごすことができます。
また、点数をつけることによって、「実はそんなに大きな怒りではなかった」ということに自分で気づけるきっかけにもなります。
カウントバック(意識をずらす)
カウントバックは、怒りを感じた瞬間に100から3ずつ引き算きながら「100、97、94,91、88、・・・」とカウントダウンして6秒やり過ごす方法です。
計算に意識が行くことで、怒りの対象から気持ちがそれて怒りが薄れるという効果もあります。
コーピングマントラ(合い言葉)
コーピングマントラは、怒りが生まれた瞬間に心の中で合い言葉を繰り返し唱える方法です。
合い言葉は、心が落ち着くフレーズなら何でも構いません、
「大丈夫」「大したことない」「なんとかなる」「キレてない」などのよくあるフレーズでも良いですし、お子さんや好きな人の名前、好きな歌の歌詞でも構いません。
心が落ち着くフレーズを繰り返し唱えることで、6秒をやり過ごしながら心を落ち着かせられます。
タイムアウト(怒りの対象から距離をとる)
とっさの対処法テクニックを使って6秒やり過ごそうとしても、怒りの対象が目の前にいて冷静になるのが難しい場合もあります。
そんなときは、その場から離れるのが有効です。
「ちょっと待ってトイレ」などと言ってその場を離れて、深呼吸することで冷静さを取り戻せます。
物理的に離れられない場合は、「ちょっと考えさせてください」などと言って6秒間目をつぶって怒りの対象を視界から消す、という方法も有効です。
アンガーログ(怒りを記録する)
アンガーログは、怒りを感じた後その怒りを記録する方法です。
日記を書くように、次の項目を記録していきます。
- 日時
- 場所
- 何があったか、なぜ怒ったか
- 怒りの点数(スケールテクニック)
ある程度続けていると、徐々に自分の怒りのパターンがわかってきます。
「上司の言動に対して怒ることが多い」
「他部門とのやりとりで怒ることが多い」
など、自分のパターンがつかめてくると、怒りやすい状況や環境を事前に回避できるようになり、怒る頻度を減らせます。
また、怒りが湧いても「またこのパターンか」と考えられるようになるため、すぐに冷静さを取り戻せます。
自分の怒りのパターンや傾向を把握することは、アンガーマネジメントを身につける上でも特に重要です。
そのため、アンガーログは特に優先して取り組みたいテクニックです。
べきログ(コアビリーフを見直す)
べきログは、怒りの原因となったコアビリーフ(自分の価値観、信条)が何だったかを考え、記録していく方法です。
自分の「べき」を記録することで、自分がどんなコアビリーフに対して怒りを感じやすいかを把握できます。
「べき」を書き出したら、その「べき」が自分にとってどれほど重要か1から10までの点数をつけてみましょう。
点数付けをすることで、「この価値観はそんなに重要じゃないからもっと相手にゆずってもいいかな」と、「べき」の境界線を広げるための分析ができるようになります。
「べき」の境界線を広げることで、許容できるゾーンの範囲が増え、怒る頻度を減らせます。
ストレスログ(変えられないことでイライラしない)
ストレスログは、怒りを感じた状況を分析することで、頭を建設的な思考に切り替えるテクニックです。
具体的には、怒りを感じた状況を次の2軸で分析し、分類します。
- この状況は「自分でコントロールできるのか」or「できないのか」
- この状況は「自分にとって重要なことなのか」or「重要ではないのか」
コントロールできるか | 重要か | 思考の切り替え |
---|---|---|
コントロールできる | 重要である | 状況を変えるために、計画を立てて行動する。 |
重要ではない | 重要ではないことは気にしない。 どうしても気になるなら、気が向いたときに状況を変えるべく行動する。 | |
コントロールできない | 重要である | 自分ではコントロールできないことでイライラするのはムダだと考える。 状況を変えられない事実を受け入れる。 |
重要ではない | 重要ではないことは気にしない。 状況を変えることもできないので、気にせず放っておく。 |
例えば、
「上司の言い方が高圧的」
「部下があいさつしない」
といった状況だとイライラしますね。
ですが、他人の性格はコントロールできません。
自分では変えられないものにイライラしているんだと気づければ、「そこに怒っても意味がない、怒り損だ」と思えるようになり、怒りの頻度を減らせます。
怒りを適切に表現するには
アンガーマネジメントを学んだ人の多くが悩むのが、適切な怒りの表現の具体的な方法です。
- 怒りをうまくに相手に伝えるには、具体的にどのように表現すればいいのか
- どんな言い方をすれば、攻撃的にならずに相手に自分の気持ちをわかってもらえるのか
このような質問が多く聞かれます。
アンガーマネジメントによって怒りにまかせた衝動的な行動を抑えられたら、次はその怒りを適切に相手に伝えることが大切です。
そのため、実際に職場でアンガーマネジメントを活用するには、アンガーマネジメントとセットで「適切な怒りの表現方法」も学ぶ必要があります。
適切な怒りの表現方法、それは「アサーション」です。
アサーションとは、「自分も相手も大切にする自己表現」と定義されている、自己主張の手法です。
アメリカでのアサーショントレーニングでは、相手に怒りを伝える表現を身につけるためにアサーションのスキルや考え方が取り入れられています。
出典:戸田久美「アサーティブ・コミュニケーション」
アサーションの意味合いやテクニックを、次の記事で詳しく解説しています。アンガーマネジメントとセットでご覧ください。
まとめ
アンガーマネジメントは、ビジネスパーソンが身につけるべき意味のある心理テクニックです。
アンガーマネジメントを身につけると、次の3つのメリットが得られます。
- 怒りにまかせて衝動的に行動してしまうのを防ぎ、適切に怒りを伝えられるようになる
- 衝動的な行動を抑えることで、パワハラの加害者になることを避けられる
- 怒りの感情と上手に付き合えるようになることで、コミュニケーション能力が高まる
アンガーマネジメントを身につけるには、怒りの性質や原因を知り、自分の怒りタイプを診断しておくと良いでしょう。
アンガーマネジメントのテクニックには、怒りを感じたときの「とっさの対処法」と「長期的な改善法」の2タイプがあります。
タイプ | テクニック | 特徴 |
---|---|---|
とっさの対処法 | ・6秒ルール ・スケールテクニック ・カウントバック ・タイムアウト | ・怒りを感じたときに使う、とっさの対処法 ・怒りにまかせて衝動的に行動しないためのテクニック ・イラッとした瞬間に有効 |
長期の改善法 | ・アンガーログ ・べきログ ・ストレスログ | ・怒りを減らす長期の改善法 ・長期(3週間)にわたって取り組むことで効果を発揮 |
自分にあったとっさの対処法を最低1つ見つけておくとともに、長期的な改善テクニックにも取り組みましょう。
特にアンガーログは、優先して取り組みたいテクニックです。
アンガーログに3週間取り組むことで、自分の怒りのパターンを把握して、怒りと上手に向き合えるようになります。
あなたもアンガーマネジメントを身につけ、怒りを適切に表現できるようになりましょう。
アンガーマネジメントに本気で取り組みたいと思ったら、ユーキャンのアンガーマネジメント講座がオススメです。
この記事でも解説している「怒り」の仕組みや性質を基礎から学べて、さまざまな怒りへの対処法や上手な叱り方などを身につけられます。
アンガーログを21日間実践できる教材もあるため、独学では挫折しがちな長期の改善法にも取り組め、アンガーマネジメントが習慣化します。
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