社会人になって数年がたち、会社の中でも中堅クラスになってくると、若手に仕事の指示を出す機会が出てきます。
リーダーになれば、部下に仕事を指示する機会はグンと増します。
ですが、ほとんどの人が仕事の指示の出し方を体系的に学んだことがありません。
本記事は、仕事の指示の出し方を記したマニュアルです。
仕事の指示の出し方を学ばないまま部下を持ってしまったあなたのために用意しました。
仕事の指示の出し方ひとつで、部下のモチベーションも生産性も大きく変わりますし、仕事のミスや手戻りを防ぐこともできます。
ぜひ、このマニュアルを読んで適切な指示ができるリーダーになってください。
準備:指示する前にやること
部下に指示を出すとき、いきなり部下を呼びつけてはいけません。
指示を出す前にやっておく準備が3つあります。
●仕事の不明点をリストアップする
●指示する内容を整理する
●指示書を作る
事前にこの3つをやっておくだけで、部下が理解しやすい指示が出せるようになり、部下の仕事の質やスピードが向上します。
仕事の不明点をリストアップする
仕事の指示を出す前に、その仕事を進める上での不明点がないかを考えます。
もしあなたがその仕事をやるとしたら、すんなり進めて完了させられるでしょうか。
上司や他部門、取引先に確認しないとわからないような不明点があれば、リストアップしておきましょう。
上司や他部門、取引先などに確認をとる作業はあなたがやっても良いですし、部下の育成のために部下にやらせても構いません。
大切なことは、仕事の指示を出す際に、不明点がリストアップされていて、部下と共有できることです。
不明点を部下と共有する目的は、大きな手戻りのリスクを防ぐためです。
部下は、あなたが気付いた不明点には気付かずに、思い込みで作業を進めてしまうかもしれません。
そうなると、大きな手戻りが発生してしまう可能性があります。
そのような手戻りを防ぐために、あなたが気付いた不明点を部下と共有し、確認が必要なことを部下にも認識させる必要があります。
指示する内容を整理する
部下に指示を出す際には、部下が理解しやすいよう、わかりやすく伝えることが重要です。
そのために、指示する内容を整理しておきましょう。
指示の内容を整理するには、ロジカルシンキングの思考ツールであるロジックツリーを使うのが最適です。
ロジックツリーで仕事の内容を事前に整理しておくことで、わかりやすい指示が出せるようになり、指示の漏れを防ぐこともできます。
ロジックツリーの詳細は、次の記事で解説しています。
指示書を作る
作業に数日かかるようなボリュームの仕事を部下に依頼するときは、かならず指示書を作ります。
指示書といっても、ガチガチのフォーマットで作り込む必要はありませんし、作成に時間をかける必要もありません。
紙やメールに作業の項目を箇条書きにするだけで十分です。
ただし、抽象的な表現は避けて具体的な表現を使うようにしましょう。
具体的な表現のポイントは次の2点です。
- 5W2H(いつ、どこで、だれが、何を、なぜ、どのように、どのくらい)を明示する
- 数字を使う
指示書を作る目的は、指示を出した側、受けた側の双方が指示の内容をいつでも確認できるようにするためです。
人の記憶は曖昧で忘れやすいため、口頭で指示を出しただけでは、部下は指示の内容を忘れてしまいます。
また、指示を出した側のあなたも、どんな指示を出したか細部まで記憶しておくことはなかなかできません。
部下の作業漏れや、いわゆる「言った/言わない問題」を防ぐためにも、部下への指示は文書に残すようにしましょう。
指示書は、後々チェックリストとしても活用できます。
指示する①:仕事内容の伝え方
この章では、実際に部下に指示を出すときの伝え方を説明します。
●背景、目的を共有する
●仕事の全体像を伝える
●仕事の内容を具体的に伝える
●ミスしやすいポイントを伝える
●部下にどんなメリットがあるかを伝える
●部下が理解できる言葉で伝える
●簡潔明瞭に伝える
●非言語コミュニケーションを駆使する
背景、目的を共有する
部下に任せたい仕事を指示する際には、その仕事がプロジェクト全体の中でどういう位置づけなのか、なぜその仕事が必要なのかといった、背景や目的を部下に共有しましょう。
目的や背景を共有する狙いは次の3点です。
- 部下のモチベーションを高める
- 部下がゴールイメージを描きやすくする
- 指示する側の手間を減らす
部下のモチベーションを高める
部下は、任される仕事の目的やプロジェクトでの位置づけを知ることで、当事者意識が生まれて仕事に対するモチベーションが高まります。
反対に自分の仕事がどういう目的を持つのかを知らなければ、やらされ感しか感じられず、モチベーションが低下します。
部下がゴールイメージを描きやすくする
部下は、任される仕事の目的を知ることで、その仕事で求められるゴールをイメージしやすくなり、成果物の精度が高くなります。
指示する側の手間を減らす
部下が仕事の目的やゴールをイメージできなければ、ゴールに向かってどう行動すれば良いかを部下自身が自分で判断できず、あなたに聞くしかなくなります。
逐一「どうすればいいですか?」と質問されていては、あなたの手間も増えてしまいます。
仕事の目的を知ってゴールイメージを描くことで、どう行動すれば良いかを部下自身が考えられるようになるため、あなたの手間が減らせます。
仕事の全体像を伝える
仕事を指示する際には、細部を話す前に仕事の全体像を伝えましょう。
部下は、仕事の全体像を最初に把握することで、作業の地図を頭の中に描けるようになります。
その後に細部の話をすれば、部下は「今、全体の中のどこを話しているのか」を考えながら聞けるようになり、話の理解度が向上します。
仕事の内容を具体的に伝える
作業の内容を話す際には、抽象的な表現は避けて具体的に伝えましょう。
具体的な表現のポイントは指示書を作成する時と同じ次の2点です。
- 5W2H(いつ、どこで、だれが、何を、なぜ、どのように、どのくらい)を明示する
- 数字を使う
具体的な表現を使うことで、指示を伝える側と受けとる側の認識のズレを防ぎ、作業ミスを予防できます。
ミスしやすいポイントを伝える
あなたの経験からミスしやすいポイントや注意が必要なポイントがあれば、その情報も部下と共有しましょう。
そうすれば部下のミスを未然に防げ、仕事の質やスピードを高められます。
部下にどんなメリットがあるかを伝える
仕事を任せることで部下が新しい経験を積める、スキルが向上する、人脈が広がるなどの、部下にとってのメリットがある場合はそれも伝えましょう。
メリットを伝えることで、部下のモチベーションアップにつながります。
部下が理解できる言葉で伝える
部下とあなたの知識レベルは同じではありません。
部下に指示を出す際は、部下の知識レベルにあわせて、部下が理解できる言葉を使いましょう。
知識レベルが異なる人どうしがコミュニケーションをとる時は、知識レベルが高い方が低い方にあわせて言葉を選ぶことが基本です。
部下が知らない専門用語や略語を使ってしまうと、部下はあなたの話を理解できません。
簡潔明瞭に伝える
部下への指示は、短くシンプルに伝えることが重要です。
指示を出す側は、部下が理解できているか不安になると話を付け足したくなりますが、聞いている側は話が長ければ長いほど重要なポイントを見失ってしまい、話を理解しにくくなります。
部下への指示は、簡潔明瞭に伝えましょう。
非言語コミュニケーションを駆使する
部下に伝わりやすいコミュニケーションを図るには、言語だけでなく、身ぶり手ぶりや声のトーンなどの非言語コミュニケーションを駆使することも必要です。
非言語コミュニケーションの詳細は、次の記事で解説しています。
指示する②:指示したその場で確認すること
仕事の内容を部下に伝えたら、次の3点をその場で確認します。
●部下の意思を確かめる
●部下の理解度を確認する
●スケジュールと納期を決める
部下の意思を確かめる
部下が、作業を引き受ける意思があるかどうかを確認します。
あなたと部下の間に信頼関係があれば、通常はリーダーであるあなたの指示を部下が拒否することはあまりありません。
ですが、部下には部下の事情があるため、「その仕事は受けられない」と拒否されるケースもあります。
部下が仕事を拒否する主な理由は次の2つです。
- 他の作業が手一杯で、工数を割けない
- 未経験あるいは苦手な仕事内容のため、自信がない
他の作業が手一杯で、工数を割けない
部下が他の作業が手一杯で仕事を引き受けられない場合は、別の人に頼むか、部下の仕事を調整しましょう。
部下の仕事の調整も、リーダーであるあなたの役目です。
未経験あるいは苦手な仕事内容のため、自信がない
この場合は、部下自身にも仕事を引き受けるメリットがあること、多少時間がかかっても良いこと、あなたや他のメンバーがフォローに入ることをしっかり伝えて、仕事を受けてもらうよう説得しましょう。
部下自身のメリットとは、新しい経験を積むことによるスキルアップや仕事の幅の広がりなどです。
部下を説得することもリーダーの役目の一つです。
部下の理解度を確認する
任せる仕事の内容や手順を部下が理解したかを確認します。
十分理解していなくても理解したふりをするタイプの部下もいるため、「理解したかどうか」を部下に聞くだけでは理解度を測れません。
仕事の内容について質問させたり、手順を復唱させたりして、部下が本当に理解しているかを確認しましょう。
復唱には、部下自身が話を整理しながらしゃべる過程でより理解が深まるというメリットもあります。
スケジュールと納期を決める
仕事の希望納期を部下に伝えます。
その際、なぜその納期かの理由もあわせて説明しましょう。
部下は、さまざまな仕事を抱えているため、他の仕事を後回しにしないと納期を守れない状況も十分あり得ます。
その場合は、他の仕事も含めた優先順位を部下と一緒に検討しましょう。
部下が優先順位を判断できない場合は、リーダーであるあなたが責任をもって判断します。
優先順位に納得感を持たせるためにも、なぜその納期なのかの理由は重要です。
また、仕事の完了の日程だけではなく、マイルストーンごとの日程も決めます。
例えば依頼する仕事の手順が、資料作成→社内レビュー→顧客説明といった流れで行うものであれば、資料作成、社内レビュー、顧客説明それぞれの日程を決めましょう。
明確に決められない場合でも、仮日程を定めます。
その日程が、作業の進みや遅れを測る目安になります。
完了日しか決めていないと、作業途中の遅れ具合を測定できず完了日の間際まで作業遅延が検出できなくなります。
指示後:フォローの仕方
あなたの仕事は指示を出したら終わりではありません。
部下が仕事を完了させる日までフォローすることもリーダーの役目です。
任せた仕事のフォローは次のように行います。
●定期的に進捗を確認する
●仕事の状況を報告させる
●相談されたらすぐ結論を出す
●あなたの方からこまめにコミュニケーションを取る
●部下のやり方に口をはさまない
定期的に進捗を確認する
定期的に仕事の進捗を確認します。
進捗を確認する頻度は任せた仕事のボリュームや難易度にもよりますが、数週間かかるボリュームの仕事であれば、週に2回程度は進捗を確認しましょう。
あなたの組織に日報があれば日報での確認でも構いませんが、可能であれば対面で確認する方が最適です。
日報では書くのをためらわれるささいな気がかりでも、対面なら聞き出せることが多いためです。
進捗確認で確認する事項は次の2点です。
- 予定通り仕事が進んでいるか
- 課題の有無(課題があればその状況)
作業に遅れが生じていたり、課題が発生したりしていれば、詳細な状況を確認して対策を検討します。
遅れや課題は、放っておくと納期に間に合わないなどの大きな問題に発展するため、すぐに対策することが鉄則です。
部下に任せた仕事であっても、納期遅れなどが発生すればその責任はリーダーのあなたに帰属します。
仕事の状況を報告させる
進捗確認よりもさらに適切な状況確認の手段が、部下からの直接の報告です。
部下が自ら進んで業務状況を報告するよう励行させてください。
また、報告は客観的な情報を5W2Hで上げさせ、その後に部下の意見や推測を聞くようにします。
客観的な事実と主観的な意見を明確に分けて報告させることで、その後のあなたの判断や対策の質が向上します。
報告を受ける側のリーダーは、会議や他の仕事などで時間がとれないこともありますが、基本的には部下の報告・相談をいつでも受けられる体制を取る必要があります。
これは非常に重要なことです。
リーダーであるあなたの都合でコミュニケーションが断絶し、遅れや課題への対処が遅延すれば、仕事の進捗に影響するだけでなく部下のモチベーション低下にもつながってしまいます。
報告・相談を受けられる時間を設定し部下と共有するなど工夫して、部下からの報告を受けられる体制を整えておきましょう。
相談されたらすぐ結論を出す
部下から相談を受けた場合、その回答を先延ばしすることは避けましょう。
相談の回答を先延ばしすると、その間、部下の仕事が止まってしまい仕事の納期に影響が出てしまう可能性があります。
また、部下との信頼関係にも影響が出ます。
相談されたら迅速に回答を出し、部下が困っている時間をなるべく短くするようにしましょう。
あなたの方からこまめにコミュニケーションを取る
課題や困りごとが発生していても、すぐに報告してくれないタイプの部下もいます。
特に、リーダークラスと話をすることに萎縮してしまう新人や若手は、報告が遅れる場合があります。
あなたの方からこまめに部下に話しかけ、困りごとがないか、仕事は順調かをそれとなく聞き出しましょう。
リーダーは、進捗確認、部下からの報告、こまめなコミュニケーションといったあらゆる手段を使って、部下の仕事の状況を正確に把握することが重要です。
部下のやり方に口をはさまない
部下の仕事のやり方はあなたとは違うかもしれません。
部下が自分と違うやり方をしている場合、やり方に口をはさみたくなります。
ですが、仕事のやり方の正解は1つではありませんし、人それぞれやりやすいやり方があります。
特に問題がない場合は、いったん任せた仕事はそのやり方も含めて部下に委任しましょう。
ただし、明らかに問題がある仕事の進め方をしている場合は、進め方の是正を指示しましょう。
指示した仕事が完了したらやること
部下に任せた仕事が完了したら、必ず感謝とフィードバックを伝えましょう。
感謝を伝える
チームや組織の成果に貢献してくれたことに対する感謝を伝えましょう。
伝え方は口頭でもメールでも構いません。
感謝を伝えることが、部下の自信やモチベーションアップにつながり、あなたのチーム全体の士気も高まります。
フィードバックを伝える
部下は、「自分の仕事は良かったのか悪かったのか」「リーダーであるあなたはどう評価しているのか」を気にしています。
部下の仕事の良かった点、改善すべき点を具体的に部下に伝えるようにしましょう。
フィードバックを伝えることで、部下の自信や次回の改善につながりますし、あなたと部下との信頼関係も良好になります。
仕事の指示の出し方ひとつで部下は変わる
あなたが適切な指示を出すことで、部下のモチベーションが上がり、仕事のスピードや品質も向上します。
適切な指示は部下の育成効果も高めます。
また、あなたが部下の信頼を獲得するためにも、適切な指示を出すことは重要です。
仕事の指示の出し方ひとつで、生産性や部下の成長、あなたとの人間関係が大きく変化するのです。
この記事を「仕事の指示の出し方」マニュアルとして活用し、部下に適切な指示が出せるリーダーになりましょう。