仕事でのうっかりミスを「なぜなぜ分析」するよう指示されて、困ったことはありませんか?
- 真因を探せって言われても、「ついうっかり」の原因なんて思いつかない
- 対策って言われても、「以後は気をつける」くらいしか思い浮かばない
- 対策は毎回「ルールを再徹底する」に落ち着くが、はっきり言って効果はない
うっかりミスの分析と対策は、こんな感じになりがちではないでしょうか。
実は、うっかりミスのようなヒューマンエラーには、なぜなぜ分析で掘り下げたり対策を立案するための型があります。
型さえ知っていれば、「うっかりミス」の原因を掘り下げて有効な対策を立てられます。
本記事では、うっかりミスのようなヒューマンエラーについて、真因をなぜなぜ分析で掘り下げる型と、効果が高い再発防止策を立てる型を解説します
「なぜなぜ分析」については以下の記事でも詳しく解説しているので、合わせてお読みください。
そもそもヒューマンエラーとは
ヒューマンエラーのなぜなぜ分析や対策立案をスムーズに行うために、そもそもヒューマンエラーとは何かを理解しておきましょう。
ヒューマンエラーとは人の手による失敗や間違いのことで、JISでは次のように定義されています。
人間が実施する又は省略する行為と,意図される又は要求される行為との相違。
JIS Z 8115:2019
要するに、
「やるべきことが決まっている」行為に対して、
「やるべきことをやらなかった」
「やるべきではないことをやった」
これがヒューマンエラーです。
また、ヒューマンエラーには、意識的か無意識かという要素もあり、行動と意識の在り方によって次の4種類に分類できます。
- 意識的に、やるべきことをやらなかった⇒怠慢、手抜き
- 意識的に、やるべきでないことをやった⇒違反
- 無意識に、やるべきことをやらなかった⇒やり忘れ
- 無意識に、やるべきでないことをやった⇒やり間違い
意識的 | 無意識 | |
やるべきことをやらなかった | 怠慢、手抜き | やり忘れ |
やるべきでないことをやった | 違反 | やり間違い |
うっかりミスはこの表の右側の「やり忘れ」もしくは「やり間違い」のどちらかです。
うっかりミスの「なぜなぜ分析」の型
うっかりミスのなぜなぜ分析は型にそって進めることで、効果的な分析ができます。
その型がこちらです。
うっかりミスのなぜなぜ分析の「型」のポイント
●最初の「なぜ」は「なぜ起きたか」と「なぜ気がつかなかったか」
●2つめの「なぜ」でミスの要因を切り分ける
●3つめの「なぜ」の観点①まぎらわしさ
●3つめの「なぜ」の観点②「気づきづらい」
●3つめの「なぜ」の観点③「作業の障害」
●個人の心理状態の話には踏み込まない
型のポイントを一つひとつ解説します。
最初の「なぜ」は「なぜ起きたか」と「なぜ気がつかなかったか」
ヒューマンエラーの場合は、最初の「なぜ」は次の3つです。
- 作業者が、○○をやらなかった(もしくは、○○を間違えた)
- 作業者が、○○をやっていないことに気付かなかった(もしくは、○○が間違えていることに気付かなかった)
- 第三者が、○○をやっていないことに気付かなかった(もしくは、○○が間違えていることに気付かなかった)
その理由は、次の2つの観点を漏らさず分析するためです。
- ミスを防ぐ対策を立てる観点
- ミスしてもすぐ気付けるようにする対策を立てる観点
さらに、「第三者が気付かなかった」という「なぜ」を置くことで、上司やリーダーなどのミスに気づくべき人が気づけなかったというマネジメント上の問題も、漏らさず分析できます。
2つめの「なぜ」でミスの要因を切り分ける
2つめの「なぜ」(なぜ2)では、ミスの要因を切り分けます。
うっかりミスの要因には、次の3パターンがあります。
- 知らなかった(情報不足)
- 判断でミスした
- 行動でミスした
知らなかった(情報不足)
知らなかった、知っている情報が古かった。
そのため正しい判断ができず、その結果間違った行動をとってしまった。
判断でミスした
その結果間違った行動をしてしまった。
行動でミスした
正しい情報は知っていたが、勘違いや判断ミスなどでやるべきことの認識を間違えた。
やるべきことの認識はあっていたが、行動を間違えた(手がすべった、見間違えたなど)
同じ事象でも、ミスの要因がどのパターンなのかによって、分析すべき内容や対策が変わってきます。
たとえば、ミスの要因が「知らなかった」であれば情報共有の課題となり、掘り下げや対策も職場のコミュニケーションに関する議論が中心になっていきます。
勘違いが要因だった場合は、何が勘違いを誘発したのかを分析することになります。
ムダな議論を避けるためにも、最初に「今回のミスはどのパターンなのか」を切り分けて起きましょう。
3つめの「なぜ」の観点①まぎらわしさ
3つめの「なぜ」(なぜ3)を掘り下げる観点の一つ目が、「まぎらわしさ」です。
まぎらわしさとは、例えば次のようなものです。
- ファイルの色が同じだったから取り違えた
- 2つのボタンの位置が近かったから押し間違えた
- 手順書の記載がまぎらわしくて勘違いした
紛らわしさはミスを誘発する要因になります。
うっかりミスした作業の手順や環境の中に「まぎらわしさ」がなかったかに注目して、「なぜ」を抽出しましょう。
3つめの「なぜ」の観点②「気づきづらい」
3つめの「なぜ」(なぜ3)を掘り下げる観点の二つ目が「気付きづらい」です。
「気づきづらい」とは、例えば次のようなものです。
- 音量が小さくて、アラーム音に気づきづらい
- チェックリストがなくて、作業のやり忘れに気づきづらい
- 進捗確認を怠っていたため、遅れに気づきづらい
うっかりミスに至ってしまったプロセスの中にミスに気づきづらい要因がなかったかに注目して、「なぜ」を抽出しましょう。
3つめの「なぜ」の観点③「作業の障害」
うっかりミスで「なぜ」を掘り下げる観点の三つ目が「作業の障害」です。
作業の障害とは、作業の妨げになる要因のことで、例えば次のようなものがあります。
- 作業環境が散らかっていて、物や書類の紛失が起きやすい
- 作業中に何度も電話がかかってきて、集中できない
- 作業そのものが煩雑で、間違えやすい
うっかりミスをした環境や状況、作業そのものの中に、ミスを誘発する障害がなかったかに注目して「なぜ」を抽出しましょう。
個人の心理状態の話には踏み込まない
以下の記事でも説明していますが、なぜなぜ分析では個人の心理状態の話に踏み込むのは禁物です。
心理状態とは、「焦っていた」や「ぼーっとしていた」などのことです。
個人の心理状態を掘り下げても、有効な再発防止にはつながりません。
たとえば、ミスの理由に「ぼーっとしていた」をあげて掘り下げると、次のように展開します。
これでは、ミスの原因は昨夜の残業となってしまい、有効な対策が打てません。
「焦っていた」や「ぼーっとしていた」などの個人の心理面の追及は避け、ミスを誘発した仕組みに焦点をあてて掘り下げるようにしましょう。
うっかりミスの「対策」の型
うっかりミスのようなヒューマンエラーの対策の型は、フールプルーフの5つの原理にのっとって対策案を抽出することです。
フールプルーフとは安全工学の用語であり、JISでは次のように定義されています。
人為的に不適切な行為,過失などが起こっても,システムの信頼性及び安全性を保持する性質
JIS Z 8115:2019
要するに、やり忘れたり間違えたりたりしても、大きな問題が起きないようにする仕組みや工夫のことです。
そもそも間違えない、間違えることができないようにする仕組みや工夫も、フールプルーフに含まれます。
フールプルーフには以下の5つの原理があります。
この原理の観点にのっとって対策案を考えることで、有効な対策案が立案できます。
排除:その作業をなくす
うっかりミスが起きた作業そのものをなくせるかという観点で対策を考えます。
その作業は誰のための作業なのか、何のための作業なのかを洗い出して、本当に必要な作業なのか確認してみましょう。
例えば、以前に他部門から依頼されて追加した作業の場合、再びその部門に確認すると「実はもう必要ない」と言われることがよくあります。
作業そのものがなくなれば、今後その作業でミスすることはあり得ないため、完全な再発防止ができます。
代替化:その作業を替える
うっかりミスが起きた作業を、ミスが起きにくくなる方法に替えられるかという観点で対策を考えます。
例えば、その作業を自動化・機械化できれば人が行うよりもミスが減らせます。
また、手順書を作成するのも代替化の一例です。
それまで作業者の頭で記憶していた作業手順を、手順書に置き替えることで、記憶違いやど忘れといったミスを防止できます。
(なお、作業の主体は作業者のままでその一部(例えば作業手順)を代替化することを「一部代替化」と呼びます)
ミスが起きた真因の部分を代替化できれば、高い再発防止効果が期待できます。
容易化:その作業を簡単にする
その作業を、作業者が行いやすいやり方に変更できるかという観点で、対策を考えます。
例えば、煩雑な作業手順をシンプルにして作業のステップ数を減らすなどです。
作業が簡単になればミスが入り込む余地が減るため、再発防止に一定の効果が見込めます。
異常検出:ミスしたらすぐに気づけるようにする
うっかりミスが発生したとき、その後の作業工程のなかでミスが検出できるかという観点で対策を考えます。
たとえば、作業完了チェックシートにチェックしないと成果物を後工程に渡せない仕組みにすれば、作業者がチェックリストにチェックを入れる時点で作業のやり忘れに気づけるため、後工程に成果物を渡す前に是正できます。
異常検出は、ミスを検出する工程が後ろになればなるほど手戻りが大きくなるため、できるだけミスが発生した作業に近い工程で検出するのが基本です。
また、代替化or容易化と異常検出の2つの対策をセットで実施すると、再発防止の効果が高くなります。
影響緩和:ミスの影響を小さくする
作業ミスの影響を、波及過程で緩和できるかいう観点で対策を考えます。
例えば、装置にヒューズをつければ、配線ミスで過電流が発生してしまってもその影響がヒューズ切れにとどまり、装置そのものへ過電流が波及することを防げます。
【図解】フールプルーフの5つの原理と対策の型
フールプルーフの5つの原理と対策を図にまとめると次のようになります。
「なぜなぜ分析」を始める前に作業の流れを理解しよう
ヒューマンエラーの場合は、「なぜなぜ分析」に入る前に、まずミスが起きた状況を書き出すことが大切です。
うっかりミスの当事者に話を聞きながら、ミスが起きた際の手順や状況をつぶさに書き出しましょう。
目的は、発生したうっかりミスの詳細な状況を、なぜなぜ分析を行うメンバー全員が正しく理解するためです。
例えば、ATMでの振り込み作業を間違えたという事象の場合は、
- 何を間違えたのか(値の入力を間違えた/ボタンを押し間違えた)
- どこで間違えたのか(どの画面での、どの入力項目/どのボタンで間違えたのか)
など、具体的に確認します。
現物を見ながら確認すると、より認識のズレをなくせます。
この際、ミスをした当事者を責めるような言動は禁物です。
当事者は、ミスしたことのふがいなさや申し訳なさ、恥ずかしさで頭がいっぱいのはずです。
ミスした当時のことを少しでも冷静に思い出してもらうためには、責めるような言動は控えて状況確認に徹する必要があります。
なぜなぜ分析は責任追及の場ではなく、原因究明と再発防止が目的ということを心得ておきましょう。
まとめ
うっかりミスのなぜなぜ分析の型と、対策の型を解説しました。
なぜなぜ分析の型にそって分析を進めることで、スムーズに真因にたどりつけます。
また、対策の型にのっとって対策案を考えることで、効果が高い対策を考えられます。
型を活用して効果が高い再発防止策がうてるようになりましょう。